編集部にブロードバンドの波が。
しかもマイナーな無線インターネット。
ADSLとかよりも確実に人口少ないだろうので、
興味ある人もいるかもしれないから無線インターネットの導入日記を展開。
上手く設置できるまでの軌跡を記します。
短期集中なんでよろしく。
↓の方向に進みます。
俺の眠りを妨げたのは「スペースチャンネルJ」のテーマだった。
時刻はまだ12:07。まだ俺にとっては早朝だ。眠い。
それでも携帯を取り通話ボタンを押す。もしもし。
――こちらスピードネットのM**です。今日は工事のご案内のお電話です。
「スピードネット」というキーワードで俺の意識は覚醒した。
そうだ、スピードネットだ。無線インターネットだ。マイナーだ・・・。
時は遡ること2ヶ月ほど前。
6月の俺の生誕の日を過ぎてから暫し経った日のことだ。
世間にADSLの波が浸透し始めた頃である。
俺のネット接続法はデスクトップの癖にPHS。
アナログ回線よりは速いのだが、如何せん通信料金が高いことこの上ない。
月に云万円はざらだ。
一介の無職に過ぎぬ男にとっては大きな負担である。
年金が払えぬのも道理。
そこに現れたのが、DDIポケットからの使者”Air H"”。
PHSでありながら定額料金であるのが魅力的だ。
例えて言うなれば井川遙の唇。
しっとりと濡れ、艶ややかで男共を魅了する。
エロスの唇のようなものだ。
その”Air H"”を早速購入。
しかし、編集部では上手く電波を捉えることができぬという事実発覚。
鴨が葱背負ってやってきてそのまま第一ゲート通過した赴き。
畢竟、裏切られたということだ。
しかもdocomo製PHSより遅い。致命的だ。
その時には年間契約を結んでしまっており、
一年間は使わなければならぬことになっていた。
使わなければならないのであろう、嗚呼。
そんな黄昏の回線状況の救世主として現れたのが「スピードネット」である。
当時ADSLのサービス地域外であった編集部に現れたスピードネットは俺の心を揺さぶった。
スピードネットはさいたま市を中心に展開する無線通信事業主。
電柱を介して家庭にインターネット回線を敷く。
最大速度1.5Mbpsで、ADSLと同等だ。悪くない。
俺はwebにて申し込み。
しかし、さいたま市の一部地域のみサービス開始と言うことで
編集部は一部地域から外されることとなった。
これだから近くに霊園があると困るのだ。
牧場もあれば、キャンプ場もあるのが遠因なのかもしれない。
ともあれ、9月には市内完全サービス開始とのこと。
俺は9月まで待つことにしたのだった。
ここで冒頭に返る。M**嬢の電話だ。
事前登録より2ヶ月。
その間、ADSLは躍進を続けていた。
新規参入の「Yahoo! BB」が脅威の定額料金でサービス開始を宣言。
他社ADSLサービスもその動きに合わせるかのように料金値下げを宣言。
世は正にADSL戦国絵巻の図を描こうとしていた。
ADSLではないが、スピードネットもブロードバンドのはしくれ。
サービス開始を早めなければ存在自体が忘れられてしまう。
そう思ったかのように、スピードネットはサービス開始時期を前倒ししてきた。
靖国参拝を前倒ししたコイズミ首相よりも早い前倒しだ。恐れ入谷の鬼子母神。
俺は早速本登録を行った。そして、かかってきたのがM**嬢の電話だ。
――漸く整ったか・・・。
俺はそう戦が始まる予感を覚えた。
予想よりも速くブロードバンド到来だ。歓喜に打ち震える。
――工事の日程で都合の宜しい日はいつでしょうか?
――早いことに越したことはない。それは何時だ。
――20日になります。
――では、20日の日中に致せ。都合がよい。
――畏まりました。
俺は通話を終えた。
電話で安眠を邪魔されたわけだが、その割には爽やかだ。
それは陽気のせいなのだろう。
俺は無線通信に必要な機材を揃えるべく大宮はさくらやへ向かった。
とはいえ、必要なものはLANボードとLANケーブル(ストレート)だけだ。
安いものだ。
が、俺は宵越しの金を持たぬ主義。それでも懐は痛む。
「ポイントを使って購入がするが吉」と今日の占いカウントダウンで言っていた。
俺はそれに従う。
無事入手した機材をPCに繋げる。
起動が重くなった。
まだ、使わないということで、ドライバを一時無効にする。
が、起動時のドライバチェックでエラーが発生する。
何かキーを押せば無事起動するものの、どこか不安だ。
3日後に迫った工事が待ち遠しい。
台風が迫っているという。
20日の工事期に直撃ないしは影響がある場合、工事はどうなるのであろう。
タイミングが悪い。
そこで、不安がもう一つ。
無線通信の要は「電柱」だ。
もし、台風などの天災で電柱ないし電線に被害が出た場合どうなってしまうのだろう。
そんな不安が頭を過ぎった一日。
1週間というもの、図らずも心躍らせて待ってしまったものだ。
柄にもない(と思う)。
いつもより早めに起床。それでも午後1時だ。
スピードネットからの連絡を待つため、
編集部ではなく、階下の居間で「ごきげんよう」「はるちゃん5」を見ながら待つ。
こちらが指定した時刻は午後2時から3時の間。
工事自体1時間もかからないという。
午後4時にはバイトに向かわなければならないのでゆとりを持った時刻設定だ。
だが、午後2時を過ぎても連絡がない。
遅い、と思いながらもフジテレビジョンを付けっぱなしで待つ。
そこに自宅の電話が鳴った。スピードネットからに違いない。
――こちら特車二課。
――T**畳店ですが、そちらの畳は大丈夫でしょうか。
俺の頭の中には疑問符。というよりタイミングが悪いことこの上ない。
――畳屋に用はない。
――こりゃまた失礼しましたぁ。
期待を裏切られた格好となり、拍子抜けだ。煙草でも飲んで気を鎮めることにする。
そこにもう一本の電話。今度こそだな、と祈りを込めて受話器を取り上げる。
――こちら公安九課。
――スピードネットの工事担当の者ですが、
現在深作で工事しておりますので1時間ほどかかります。
――早めに頼む。
更に向こうが言うには測定に20分ほどかかるという。
それから工事にかかるということは、時間がそれなりに掛かるであろう。
予定到着時刻は3時15分ほどであることが分かった。
バイトのことを考えるとギリギリである。
何かを待つという心境においては、時刻の進みが遅いと感じるもの。
その時の俺もそうだった・・・。
予定の時刻の五分前。午後3時10分。
もう一度スピードネット工事担当から電話あり。
あと、15分で着くという。
額面通り受け取っていると希望はうち砕かれる。
俺は定刻到着を期待せずに待つことにした。勿論相棒は赤ラークだ。
当然のように予定より遅れてスピードネット工事担当到着。時刻は3時25分。
既に俺に残された時間は30分強だ。
一言文句も言いたかったが、そこは男子たるもの堪えなければならない。
タオルを頭に巻いたいかにも作業員なアニキがまずはどこに設置するかと問う。
俺は表から編集部の場所を指さした。
通常ならば屋根馬に設置するのだが、編集部のある一戸建てにはそれがない。
アンテナはベランダに設置してあるのだ。雷を避けるためか。
そうなると、部屋の窓枠に設置することになる。
早速編集部に行き、窓から電波が届いているか測定することになった。
しかし、部屋に上がり込んでくることを想定していなかった編集部は汚いこと至上。
足の踏み場は確保してあったものの、窓から手を伸ばすことが難しい。
目の前に本の山が積まれているからだ。
我ながら本の多さに呆れつつ、羞恥の念も過ぎったがそれはその場限りのこと。
工事担当の者がいなくなればそんな念も雲散霧消するはずだ。
恥の掻き捨てというやつである。情けないことだ。
担当が手を精一杯伸ばして電波を測定する。
電波を放出する基地とやらが420mほど先に存在するらしい。結構な距離である。
通常なら電波受信できる範囲だというのだが、反応がない。
もう一つの窓で試してみるもこちらも反応がない。
――なんたることだ・・・。
俺は口惜しさに苛まれた。早起きしてまで待ったというのに設置不可能なのか。
――屋根馬試してみますか。
笑顔で担当が言う。
――願い仕る。
そうして屋根馬で試すこととなった。
とは言え、実際に屋根に上って測定するわけではない。
2階の窓よりポールを伸ばして測定するのである。
それに淡い期待を懐きつつも、その一方で駄目であろうという諦観もあった。
結果は結局電波届かず。つまりは無線通信できないということである。
原因としては途中に大きな建物(三階建ても当てはまる)、あるいは木があるという。
地図を見せてもらったところ、大きな建物がライン上にはあるとは思えない。
そうなると大きな木が存在するということである。
近隣の地形を思い出す。
さいたまも外れの方ということもあり、地形は起伏に富んでいる。
しかも、木々も多い。
近所に、巨大霊園、牧場、社、キャンプ場などがあるほどの田舎なのだ。
木が邪魔をして電波を遮ってもおかしくない。
――世の中罠だらけだな・・・。
某氏が語った独白を思い出す。
そう、世の中は罠が張り巡らされている。蜘蛛の糸のように。
なんでもスピードネットは基地を頻繁に増やしているらしい。
近隣にもう一つ基地が出来ることを待つことにした。
営業の者にそう伝えるように工事担当に伝え、本日の工事は終了した。
とはいえ、よくよく考えてみれば編集部の回りには林が文字通り林立している。
基地が増えたところで電波受信は適わないのかもしれない。
いっそのことADSLにしてしまおうか、などと考えつつバイトに向かったのだった。
設置できなかった中にも光明を見いだすとすれば
バイトに間に合った、ということだけである。嗚呼。
予想に反して”続く”。